低所得者居住地の実情 -アリ村-
この一帯はソウル市が所有する土地である。むこうに見える黒いものは住まいである。しかし、あれは農業用ビニルハウスということになっている・・・。
入り込んだら迷ってしまうから、通称「アリ村」。ソウル市内の再開発により立ち退きを余儀なくされた人々など、99世帯が暮らしている。住民のうち半分が無職で、高齢者も半分以上を占めているという。背後の高層アパート群とは対照的な低所得者層の居住地といえる。
公共の土地に無許可で住んでいたここの住民にはかつて住所がなく、そのためにソウル市民として認められていなかった。裁判の結果、2001年3月に住所が認められたあとは行政が最低限度の生活支援ということで電気、ガス、水道、電話の整備をしたので、居住環境は向上している。

「ビニルハウスに住まざるを得なかった人々の暮らしが行政の支援により改善された。めでたしめでたし。」というところではこの話は終わらない。この現場から、再開発の影と住宅政策の空白を垣間見ることができる。
ソウルでの住宅供給はタワーパレスの事例からも民間中心であることがわかる。実際、公的な賃貸住宅は十分確保されているとはいえないという。再開発で立ち退いたあと、自力でソウルに住宅を得ようにも低所得者にとってはむずかしいのである。
アリ村周辺では2010年から再開発が予定されている。ほんとうに住宅に困ってここに住まざるをえない人はまた別の住まいを探すことになるため、長期的に見れば行政による現在の支援も応急処置といえる。低所得者のための住宅が別の形で用意されるしくみがなければ、また同じようなアリ村がどこかにできてしまうだろう。
そのいっぽうで、再開発による居住権の補償を見込んで、実は裕福なのに貧しい暮らしを外見上装っている人もいるという報道があり、地元住民はそのことについて抗議を行っている。こうした経緯が、アリ村の実情を複雑にしている。アリ村への行政による生活支援は最低限度の生活を保障するためのものであり、自力で生活できる人々は本来対象とならないはずである。現状では黒いビニルをかければ、中でどんな裕福な暮らしをしていようと低所得者とみなされる。しかし中には自家用車を持つような世帯もあるという。
アリ村は低所得者層の居住地という位置づけであるが、居住環境の直接的な改善にとどまらず、公的支援のありかたなど、住宅政策全体にかかわる大きな課題を念頭におく必要があることをこの実情は示している。

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