ここでは一部を掲載しています。
写真コレクション10000点をデータベース化
−新たに発掘された西山資料− 松本滋(姫路工業大学教授)
<文庫の新展示紹介>
西山夘三京都大学「住居論」講義のための手描き墨絵図

写真コレクション10000点をデータベース化
−新たに発掘された西山資料− 松本滋(姫路工業大学教授)
記録魔=西山先生は、1935年から半世紀にわたる間に、数十万コマもの写真を残しておられます。それはまさに‘二十世紀日本の住まいと生活空間の映像博物館’といえます。
当時としては、超高級カメラのコンタックスを使い、初期のものは自分で現像や引き伸ばしもされています。現像液の調合も自分で工夫し、マクロ撮影機、引き伸ばし機も手作りのものです。 同時にそれは西山先生の研究活動の一環、撮影対象のほとんどは建築、住宅、都市・農漁村、環境、暮らしに関するものになっています。そのエリアは北海道から沖縄まで全ての都道府県、海外を含むフィールドを網羅しています。戦争を挟む半世紀を超える時を、西山先生の目が、何に向けられていたかを雄弁に物語ってくれています。
戦時中の実験住宅、戦後の市電住宅、不良住宅、開拓村、災害住宅、文化住宅等々、今では失われた貴重な映像もあります。その大量の貴重な画像の中に西山先生の庶民や弱いものへの温かい眼差しを見ることができます。農家、漁家、町家、社宅、公営・公団住宅、モダンリビングなどまさに‘日本のすまいの百科事典’となっています。さらに町並み、交通、公害、災害から生活様式まで西山先生の眼光は日本人の生活空間の隅々にまでいきわたっています。
スライドとロールネガの全て、およびスリーブネガのうち比較的古いモノの一部で約1万枚のデータベース(画像+撮影日時、場所、内容のデータつき)が整理できています。画像一覧から選んで見ることも、データによる検索も可能です。
すでに何件か問い合わせも来ていますが、一度文庫に足を運んでデータベースにアクセスしてみて下さい。この宝の山に触れると西山ワールドの豊かな広がりに驚嘆されるでしょう。
<文庫の新展示紹介>
西山夘三京都大学「住居論」講義のための手描き墨絵図
文庫の整理作業から見い出されました。A1サイズのバラ紙に30枚、古びたハトロン紙の袋に折り畳まれて入っていました。すべて筆墨の手描き。昭和35年ごろ、京都大学建築学科における「住居論」(3回生向け)の講義で用いたと推定されます。
当時、戦災復興から経済成長・都市化へ時代は大きな変わり目。西山先生の住宅計画の研究も国民のナショナルミニマムを達成する段階から、多様な階層の住要求の発展とその現実のための計画理論や政策づくりへ時代は動きつつありました。それらの趨勢の意味を明らかにし、仮説を大胆に構築して実証する、国民のニーズを類型的に把握して計画と政策に生かすという一線の住宅学者としての学説づくりの様子がわかります。
9月の第三回総会にあたり、そのうち12枚に解説を付して展示パネルに作成して文庫で公開しています。是非ご覧下さい。
■社会階層分化と住宅の種別
近代社会では、一口に住宅といってもその存在は実に多様である。専用か併用か、富裕か貧困か、所有関係や住居形式などを加えて総合的な類型化の方法を探っている。のちの大著『日本のすまい』全3巻につながる発想。
■食寝分離論
伝統的なタタミの間は、フトンを上げてチャブ台=座食卓を置けば食事室に転換されると考えられてきた。ところが住み方調査の結果から、小住宅の設計では、たとえ3畳間でも寝室とは別に食事スペースを確保すべきだという「食寝分離論」の提案を導いた。
一世を風靡するDK=ダイニングキッチンを生み出す設計原理となった。
■家族と住生活
住宅を生活面から研究していくと、家族の構成や生活様式の問題にいたる。農家や商家など親子3世代同居が一般的であった時代だが、都市家族では、家族構成や人数の変化=輪廻に合わせて必要とする大きさの住宅に住み替えるモデルを提案。
■ユカ座とイス座
伝統的な日本の住宅は、床と土間で構成されてきた。床にタタミ・フトンなどを敷いて起居する「ユカ座」=和室にたいして、便利な「イス座」=洋間をどう採用すべきか。全面的なイス座へ移行するのは室も狭く、時期尚早として、混乱や暫時拡大が好ましいとしている。
■住宅難と住宅困窮
小ささ、狭さ、設備共用、老朽をいった客観的な状態=「住宅難」の測定だけでなく、住み手がいまの住まいに満足しているかどうか主観的な状態の調査を提案して、住宅センサスに採用された。それが「住宅困窮感」という考え方で、住要求の実現へという主体の意識を把握することの重要性に着眼したものである。
■住居観と住宅志向
都市化のなかで登場した新中間層の多様な住宅志向をとらえて住宅供給をおこなう兆候があらわれた。人々は住まいに何を重点的にもとめるか、その志向を類型化するために「住居観」(または「住意識」)という考え方をたてた。住生活を「たのしむ」型の発展を予見。いまのライフスタイル論の先駆。
■住まいと居住地域
大都市から農村にいたる生活圏モデルの概説説明にとどまっている。居住環境という概念もまだ未成熟で、本格的研究は絹谷祐規(1927〜64)や住田昌二たちの次の世代の取り組みになった。