ここでは一部を掲載しています。
中学時代から“超漫画少年”だった!
塩崎賢明(神戸大学助教授)
工都大阪に生きた父とその時代のドキュメント
西山夘三著『安治川物語 鉄工職人夘之助と明治の大阪』
安藤元夫(近畿大学教授)

中学時代から“超漫画少年”だった!
塩崎賢明(神戸大学助教授)
新発見の資料は、漫画集、日記、小説原稿、講義用掛図などです。なかでも漫画の集録は秀逸です。西山先生は生前に『あゝ、楼台の花に酔う』という青春漫画小説を出版されていますが、今回発見されたものはそれ以前の作品で、以下のようなものです。
@『武者修行・牡丹餅餡助漫遊記』(大正14年1月―15年5月制作)128頁、510コマ、手書き、手製本(彩色表紙)中学生頃に作製した漫画本。「ぼたもちあんすけ」という若武者の物語。
A『ぼた餅あん助』(櫻井漫画会会誌第1扁)36頁、100コマ、ガリ版印刷、手製本@の草稿か、もしくはその逆。一人で漫画会をつくり、会誌を発行。
B『随筆漫文漫画帳』(昭和4年1月元旦)34頁、手書き、手製本
C『随筆漫画帳・第1編』(三高時代?)140頁、手書き、手製本
D『随筆漫画帳・第2輯』(昭和3年8月24日)45頁、手書き、手製本
E『漫画・第3編』97頁、手書き、手製本
F『漫画・第4編』
「ぼたもちあんすけ」表紙
工都大阪に生きた父とその時代のドキュメント
西山夘三著『安治川物語 鉄工職人夘之助と明治の大阪』
安藤元夫(近畿大学教授)
著者がこの物語で描きたかったのは次の点であろう。
第一は、父母の生い立ちから成長・成功に至る過程を中心に据えながら、著者自らのルーツに対する深い洞察です。
第二は、夘之助らのすまいと工場を築いていったプロセス、明治期における西大阪のフィジカルな空間形成過程を克明に描かれています。主人公が眺めた安治川べりの風景も目に浮かびます。著者はこれらを文学として表現したかったのではなく、大阪や日本が経済発展のなかで変化させてきたものがいかに大きかったかを今の時代に語りかけているように感じます。
第三に、庶民の生活を時代の大きな流れとの決死の格闘としてとらえ、夘平や夘之助が時代の波に翻弄されながら、どのように生きる道を見出していったのかをリアルに描かれています。
本書の性格と方法を知れば、より魅力は増します。それは、著者が生まれる以前の時代を描いた物語です。自ら体験しえなかったことをメモや聞き取りで構成し、自分の専門外のことを猛烈に勉強しながら書かれています。ここで扱われている世界は、海運業、造船業、鉄工所、機械類、職人・商人の世界等どれも先生にとって体験や専門領域とは縁が薄かったはずです。父母の生きた世界を再構築するために、著者はあらゆる方法を駆使し、父母からの聞き取りのほかに、縁者、教え子等に調査を依頼した多数の書簡が残されています。また利用した多数の図書、資料には赤鉛筆と青鉛筆を使って読み砕いていった跡が残されています。
図版の多様さも500頁におよび、本書をより魅力あるものにしています。著者は一冊の本のために膨大な資料を集め、また原稿に着手する前にくり返しメモを作っています。これらの資料や赤字が大量に書き込まれた推敲原稿等は、生きた教材として、西山夘三記念すまい・まちづくり文庫に整理されています。
本書を多くの方々に読んでいただくとともに、研究とまちづくりのミュージアムをめざす文庫にも、是非お越しください。