西山文庫とは

西山夘三 -その生涯

 西山夘三(にしやま うぞう、以下、西山という。)は、すまい・まちづくりの科学的実践研究の先駆者である。また、いわゆる象牙の塔の「知識人」からもっとも遠い人であった。明治44年、1911年に生まれ、阪神・淡路大震災の前年の1994年、平成6年に世を去った西山の生涯は、20世紀のほぼ端から端を蔽い、研究の主な期間は、昭和戦前の15年戦争期から戦後復興期を経て高度成長期にわたった。その生涯は、広義には「ニ十世紀の人」、狭義には激動の中を生き抜いた「昭和人」であった。常に論争を巻き起こしつつ、研究の第一線を走り続けた。研究テーマは、住宅、建築、町並みから都市、地域、国土へと重層的な展開を見せた。真骨頂は研究者であったが、その枠に収まりきらず、建築家、プランナー、運動家、はたまた画家、漫画家などと呼ぶにふさわしい多彩な仕事を残した。

 西山は、大阪の下町で西山鉄工所の三男として生まれた。多感な青春時代の豊中中学、第三高等学校を経て、1930年に京都帝国大学工学部建築学科に入学した。同級生らと研究集団「dezam」(デザム)を結成して活発な研究・評論活動を展開し、社会を見る目を養った。卒業論文は『住宅計画の科学的研究』、卒業設計は「劇場」がテーマであった。1941年に住宅営団技師となったが、この頃、庶民住宅の住み方調査などにより、戦後の住宅平面計画の主流となったDK(ダイニングキッチン)型の誕生に大きな影響を与えたといわれる「食寝分離論」に代表される多くの著名な研究論文を発表した。

 戦後は、各地の農村での農家住宅調査、大都市の不良住宅調査と住宅改善事業の指導に精力的に取り組んだ。1960年以降、経済の急速な発展に伴うさまざまな開発や環境破壊に対抗する論理展開、京都の景観を破壊するとして京都タワー建設への批判、庶民の足を守り都市空間の自動車化を防ぐための京都市電を守る運動の支援などに取り組んだ。一方で、京都計画や奈良計画、21世紀の設計などのビジョン・構想計画の提示、大阪万博会場計画や千里ニュータウン計画など、時代を代表するプロジェクト計画策定も、京大西山研究室を中心として進めた。

 1974年の京都大学退官前後から、日本のすまいに関する浩瀚な著作、すまいと自分史に関わる一連の著作やエッセイ、歴史的町並みの調査と保全運動の支援、さらに、新建築家技術者集団や日本住宅会議の結成といった実践活動にも精力的に取り組んだ。最晩年には、京都ホテルや京都駅ビルなどの景観破壊への批判と抵抗運動をリードした。そして、京都駅ビル訴訟の原告側証人として1時間半の論述を行った翌日、1994年2月10日に、くも膜下出血で倒れ同年4月2日に逝去した。享年83歳。


年表

1911年 大阪市此花区西九条で生まれる

1933年 京都帝国大学建築学科卒

1944年 京都帝国大学講師、46年助教授

1947年 「庶民住宅の研究」により工学博士

1959年 日本建築学会副会長

1960年 日本学術会議会員、以後6期(18年間)

1961年 京都大学教授

1974年 京都大学退官。京都大学名誉教授

1981年 日本住宅会議結成・代表委員

1986年 「住居学、建築計画学、地域計画学の発展に対する貢献」により日本建築学会大賞

1994年 4月2日死去、享年83才


主な著書

『国民住居論巧』伊藤書店44年

『これからのすまい』相模書房47年、毎日出版文化賞。復刻版-同書房より2011年

『日本の住宅問題』岩波新書52年

『住み方の記』文芸春秋社66年、日本エッセイストクラブ賞

『西山夘三著作集』全4巻(住宅計画、住居論、地域空間論、建築論)勁草書房68~69年

『21世紀の設計』全4巻編著、勁草書房71~72年

『日本のすまいⅠ・Ⅱ・Ⅲ』勁草書房75~80年

『建築学入門』『戦争と住宅』勁草書房83年

『すまい考今学―現代日本住宅史―』彰国社89年

『まちづくりの構想』都市文化社90年

『歴史的景観とまちづくり』都市文化社90年

『安治川物語』(遺稿)日本経済評論社97年


西山文庫設立の経緯とあゆみ

 西山が亡くなった5ヶ月後の1994年8月に、教え子たちを中心に「西山夘三研究会」が設けられて、西山夘三宅(京都市左京区)で資料整理を始めた。自宅は、家全体が書斎と資料置き場と化していた。これらの資料は、日本のすまい研究の基であり、西山の全生活史を示していた。ほこりにまみれた資料の取り出し、タイトルなどを明記して袋に整理するところから作業は始まった。翌年1月に発生した阪神・淡路大震災によって、作業は一時中断したが、賃貸マンションに保管されていた資料も併せて、京都市中心部の貸しビルの一室に移して作業を再開した。

 本格的な資料整理と継続的な活動のために、全国の研究者などに呼びかけ、多くの賛同者を得て、95年7月に西山文庫設立総会、96年6月に第一回総会が開かれ、組織的な整理活動が始まった。その後、積水ハウス株式会社のご厚意により、同社総合住宅研究所内(京都府木津川市)にスペースの提供を受け、96年6月に全資料を搬入、事務所を開設した。97年11月8日に正式オープンして、記念シンポジウムを開催し、資料公開が始まった。99年11月に京都府よりNPO法人の認証を受けた。西山夘三の生涯と業績に関する解題を97年、2000年に刊行、97年には西山の遺稿「安治川物語」を編集出版するなどして、所蔵資料の保管と公開を軸に多様な活動を継続している。


西山夘三 -その業績

 西山の研究業績は、大別すると、1920年代から30年代にかけて華々しく展開した国際近代建築運動をフォローした<建築論>、住宅営団時代から始まり終生のテーマであった<住宅論>、高度経済成長のはじめ京大教授就任とともに開設した<地域生活空間学>講座での仕事、京大退官後無官に徹し<まちづくり>を率先した社会活動に整理できよう。その研究業績の時代区分は次の4期に分けられる:

①戦前・戦中期(1930~44年)-住宅計画学とマスハウジングシステムの体系化

②戦後復興期(1944~61年)-住宅問題・都市住宅政策から住宅階層論へ

③高度経済成長期(1961~74年)-都市計画学の展開

④低経済成長期(1974~94年)-まちづくり運動、『日本のすまい』三部作刊行

多面的な活動を実践した西山の生涯を、対象とする空間の違いに着目して整理してみよう。

(1)住宅研究者として:この側面は次の3つに整理できる。第一は日本建築学会を中心として、狭い意味での住まいと居住に関する調査研究活動と論文発表、第二は『明日の住居』、『これからのすまい』、『すまい考今学』、『日本の住まい Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』、『住まいの思想』、『日本の住宅問題』など、住宅研究を踏まえた日本の住まいに関する浩瀚な著作、第三は『住み方の記』、『建築学入門・生活空間の探求(上)』、『戦争と住宅・生活空間の探求(下)』、『安治川物語(遺稿)』、『大正の中学生』『アゝ楼台の花に酔う』など、自分史を軸として地域や社会との関わりのなかで、住宅の意味を考察したエッセイや小説。

(2)まちづくり・ニュータウン・町並み・国土などに関わる評論・提案・計画策定者として:京都大学建築学科在学中の「dezam」研究会時代から西山は都市計画への関心を示していたが、本格的には、戦後の国土ビジョン「新しき国土建設」によって、総合的な構想を構築し始めた。その後、高度経済成長にともなう国土開発による地域空間の矛盾の現れを鋭く批判した。国土のビジョンに関わって、大規模な学際的研究組織による『21世紀の設計(1人間と生活、2空間と環境、3技術と社会、4国土の構想)』(編著)、開発問題・都市問題に関わって『国土と人権』(編著)、『現代の住宅問題(全8巻)』(編著)、町並み景観に関わって『まちづくりの構想』、『歴史的景観とまちづくり』、『京都の景観・私の遺言』などを著した。大阪万博の会場計画基本案の策定、富山太閤山開発計画、伊豆天城高原観光開発計画、京都計画、奈良計画などもこの分野に含めることができよう。

(3)実践活動、社会運動家として:NAU(新日本建築家集団、47年)結成に参画、京都大学職員組合の初代委員長(48年)、原爆展(48年)、京都市電を守る会、新建築家技術者集団の結成・代表幹事(70年)、京都自治体問題研究所理事長、日本住宅会議の結成・代表委員(81年)、ストップ・京都破壊・まちづくり市民連絡会議代表(90年)など。


西山文庫の主な活動

■所蔵資料の整理と公開

西山の60年に及ぶすまい・まちづくり研究に関わる諸資料と個人の生活記録。主な分野は、書籍・報告書・雑誌(約8500点)、手書き原稿・メモ・調査研究資料(約650ボックス)、著作原画(約70冊のクリアホルダー)、スケッチブック(約120冊)、写真ネガフィルム・スライド(約10万コマ)、日記・日誌・日録・旅行ノート・講義ノート・学習ノート(約400点)、手紙・はがき・名刺(約45ボックス)。これらの資料は、現物の整理と併せて、資料のデジタル記録化を進めている。インターネットから所蔵資料の検索が可能で、国内外から多分野の研究者等が閲覧に訪れている。

■所蔵資料を基礎とした展示普及

○企画展「西山夘三と日本のすまい-二十世紀・すまいのアーカイブス」とシンポジウムなど開催:2000年10月大阪、同年11月東京、2001年4月京都、2002年6月名古屋。

○西山夘三生誕100年記念・昭和の住まい展と記念シンポジウム2011年9月、大阪・梅田

■所蔵資料を基礎とした書籍・資料の刊行

『西山夘三-その仕事と生涯』自家版1997年

『西山夘三とその時代』自家版2000年

『安治川物語』(遺稿)日本経済評論社1997年

『戦時・戦後復興期住宅政策資料・全6巻18分冊』日本経済評論社2000~2001年

『幻の住宅営団』日本経済評論社2001年

『西山夘三の住宅・都市論-その現代的検証』日本経済評論社2007年

『昭和の日本のすまい-西山夘三写真アーカイブスから』創元社2007年、2017年重版

『軍艦島の生活<1952/1970>-住宅学者西山夘三の端島住宅調査レポート』創元社2015年

■機関紙『すまい・まちづくり文庫ニュースレター』概ねA4・16ページ、年間3回発行し会員に配布。

■すまい・まちづくりをテーマとした研究会活動

「人と住まいと社会を考える」研究部会として、外部から講師を招いて、報告討論を行っている。

■「人とすまい文庫シリーズ」の刊行

文庫の研究会活動成果の出版と若手研究者の支援もねらいとして、文庫が版元となり出版している。2017年11月に最初の2冊を刊行

関川華『パリのガルディアン物語』

江國智洋・三浦史郎『大家と居住者の共生ものがたり』

■交流と学びの場「夏の学校」の開催

全国の学生・院生を対象に、1999年に第一回、以後国内外で開催。京都・大阪99、奈良町00、郡上市05、尾道市06、秋葉原・筑波07、ジョグジャカルタ08/09、京都10、大船渡12-14、中国・桂林16、京都・井手町18など。

■すまい・まちづくりフォーラム関西21の開催

大阪・梅田スカイビルなどでほぼ毎年春と秋に、住まい・まちづくりに関する講演会を開催している。

■すまい・まちづくり関連学位論文の収集・公開

ホームページで300冊を超える所蔵論文のリストを公開している。

■書籍販売

文庫が発行、編集した書籍などを販売している

■西山夘三関連の展示・研究活動等への協力

LIXILギャラリーが、文庫所蔵資料を中心に展覧会「超絶記録!西山夘三のすまい採集帖」を開催(2017年大阪と東京)、同名書籍も出版。カローラ・ハイン教授、黒石いずみ教授の企画で、今和次郎と西山夘三について”From Architectural Ethnography to Planning”展示と講演会(オランダ・デルフト工科大学、2018年)


役員(2017~18年度)

理事長 海道清信 名城大学教授
副理事長
塩崎賢明 神戸大学名誉教授
中嶋明子 和洋女子大学名誉教授
中林 浩 神戸松蔭女子学院大学教授
森本信明 近畿大学名誉教授
理事
石井正義 積水ハウス株式会社総合住宅研究所長
上野勝代 京都府立大学名誉教授
住田昌二 大阪市立大学名誉教授
竹山清明 建築家・京都橘大学元教授
中島煕八郎 熊本県立大学名誉教授
西山勝夫 滋賀医科大学名誉教授
廣原盛明 京都府立大学名誉教授
増渕昌利 大阪市立大学非常勤講師
松本 滋 兵庫県立大学名誉教授
吉田友彦 立命館大学教授
監事
西村一朗 奈良女子大学名誉教授
藤田 忍 大阪市立大学名誉教授
顧問
岡田光正 大阪大学名誉教授
三村浩史 京都大学名誉教授
三輪泰司 ㈱地域計画建築研究所相談役
吉田あこ 筑波技術大学名誉教授

運営委員会
運営委員長 中林 浩 神戸松蔭女子学院大学教授
副運営委員長 松本 滋 兵庫県立大学名誉教授
運営委員
 小伊藤亜希子 大阪市立大学教授
 近藤民代  神戸大学准教授
 中山 徹  奈良女子大学教授
 橋本清勇  広島国際大学准教授
 檜谷美恵子 京都府立大学教授
 室崎千重  奈良女子大学専任講師
事務局長 渡辺恭彦
○会員数 約248名(2019年5月現在)

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